野菜から種を取って作る際に注意が必要な【改正種苗法】

私が保育園の時に、おやつででてきた柿を食べた後に柿の種を庭に植えたら、芽がでて、あれよあれよと成長して中学校を卒業する頃には、毎年30個くらいの柿を収穫できるようになっていました。(ほとんどカラスに食べられていましたが…)

桃栗三年柿八年という言葉がありますが、この言葉の意味は「人が技術や知恵を身に着けるには、一朝一夕では実現出来ず、長い年月をかけることが必要。」が従来の意味ですが、桃栗三年柿八年を直訳した意味としては「桃や栗は植えてから3年経たないと実を結ばず、柿にいたっては8年もの歳月が必要になる。」という意味です。

農業の「の」の字も知らない一般的な園児が適当に庭に植えて、その後一切の手入れもしてないのに、ちゃんと成長して柿の実をつけたことは、ある程度農業の知識がついてきた今では衝撃的です。

スーパーなどで買ってきた果物を食べて残った種を庭に適当に植えるだけで、プチ自給自足が完成したことになりますね!

合理主義の進んだ現代社会では、その様なことはなかなか起こりにくくなっていますが、ベランダや庭での家庭菜園や、農業に踏み出す若者達も増えている様で、食料自給率が37%以下の日本では嬉しい限りです。

>>農林水産省「日本の食料自給率」<<

色んな方々が農業に興味を持って知識を増やしていくと、意外なことがあまりに多く、世界からみた日本の農作物がどの様な状況なのかがみえてきます。

今回は、農業初心者の方が一歩踏み出しやすい(保育園児の私ですら一歩踏み出せた)家庭菜園に役に立つ情報「野菜から種をとる」ということにスポットをあてて解説していきます。

野菜から種をとる時に一緒に知識としていれておいてもらいたいのが、2021年4月1日に施行された種苗法(しゅびょうほう)の改正です。

モノによってや、種の扱い方によっては、法に触れる可能性があるので、その辺りも一緒にチェックしていきましょう。

種を取る前の基礎知識

野菜から種を取る前の基礎知識

一言で「種」といっても、種は大きく分けて3種類の種(在来種・固定種・F1種)が存在します。

>>農林水産省の品種についての資料pdf<<

種を取る前に、これらの種にそれぞれどの様な特徴があるのかをみておきましょう。

在来種の特徴

在来というと、これまであったものという意味ですが、在来種の意味としては、その地方によって、昔からずっと栽培されている種を指します。

日本の中でも北海道と沖縄では気候や環境の違いによって、育つ野菜が違ってきますが、その様に地方に根付いた、その環境に適した種が在来種という認識になります。

在来種の種を別の地域で栽培すると、その環境に適応できずに未発芽や、発育不良できちんと育たない可能性がある種になります!

固定種の特徴

悪天候や水不足など、農業の歴史は環境や天候との闘いでした。

今よりももっと深刻な水不足の問題があった中で、農家を営んできた諸先輩方は、自分たちがつくった野菜の中からより良い種(生命力や品質が高い種)を取り、より良い種の子孫を繰り返し固定しながら育ててきました。

遺伝的に強く安定した品種の種で、野菜をつくる時にも、安定的に同じ品種の野菜をつくることが可能な種になります!

F1種の特徴

一代交配種・交配種・ハイブリッド種など色んな呼ばれ方のする種ですが、F1種と呼ばれることが一般的です。

F1種は、異なる品種を交配させることによって、大量生産や病気にかかりにくい野菜づくりを追求した種で、全国に安定して野菜を供給することに役だっています。

ただし、野菜を生産する能力に長けている分、子孫を残すことには不向きで、F1種の野菜から取れる種は生命力が弱かったり、同じ形質の野菜にならなかったりと、種取りにはもっとも適していません。

種を取る時の注意点

野菜から種を取る時の注意点

種の種類

種を取る前の基礎知識でも触れましたが、F1種からは種取りは出来ないと思っておいた方がいいです。

種を取っても、発芽しなかったり、うまく成長しなかったりなど、同じ品質の野菜が出来ない可能性がすごく高いです。

しかも、F1種の野菜は亜硝酸態窒素を多く含む野菜が多く、在来種や固定種に比べて、枯れずに腐る確率も高くなるのでおすすめできません。

>>亜硝酸態窒素についてはこちらで解説していますので気になる方はご覧ください<<

種を取る場合は、在来種か固定種の種を取るようにしましょう。

種を取るタイミング

種を取る時に1番大切なことは、野菜本来の子孫を残す流れにそって種を取っていくことで、まだ種として成熟しきっていない状態の種を取ってしまうと、うまく発芽や成長しない可能性があります。

葉物野菜・実もの野菜・根もの野菜・豆類など一般的な野菜のほとんどは、乾燥させたり、枯れた状態になってから(自然の植物は枯れるという手順をふんで、自然に種が土に落ちる様に出来ているため。)種を取る様にします。

枝や蔓(つる)に実がそのままついたまま放置して、枯れるまで待って種を取ることも出来ますし、収穫して、枯らしてから種を取ることも出来ます。

収穫してから種をとる場合は、風通しの良いところに置いたり、吊るしたりして、腐らない様に注意しながら枯らすようにしていきましょう!

他品種との交配を避ける

別の品種と交配すると、いわゆるF1種になりかねません。特に虫や風によって受粉する様な、他家受粉の野菜は注意が必要です。

家庭菜園の場合は、プランターなどで育てることが多いので、受粉時期になったら、プランターを他の野菜から話して置いたり、袋で覆ったりして別の品種との交配を避ける様にしましょう。

種を取った後の保存方法

種をとった後は、風通しのいい場所でしっかりと乾燥させてから、空き缶や封筒などにいれて涼しい場所や風通しの良い場所で保管しましょう。

乾燥剤をいれることもありますが、多湿を避けたり、空気が巡る様な場所であれば、まず腐る様なことはないので、乾燥剤に頼るよりも適した保管場所を探すことを優先する様にしましょう。

種を取れる野菜の種をゲットするには

野菜の種を買う注意点

スーパーやホームセンターなど、野菜の種は割とどこでも手に入れることが出来ますが、種を買う時に注意していただきたいのが、F1・交配・ハイブリッドなどの言葉が書かれていないか確認することです。

残念ながら売られている多くがF1種なので、固定種や在来種の種をゲットする場合には、ネットで検索して通販で買うのがおすすめです。

私のおすすめの種やさんは、埼玉県飯能市にある「野口のタネ」で、伝統野菜である固定種の種を幅広く通販で取り扱っていて、珍しい野菜なども数多くあり、なにより安心して種を手に入れることが出来るので、ぜひ活用してみてください。

>>野口種苗研究所「野口のタネ」オンラインショップはこちら<<

種を取る前に抑えておきたい種苗法

野菜から種を取る 種苗法

メディアで「種苗法により自家増殖原則禁止」というニュースが報じられたことから、種の自家採取を行っている農家さんや、固定種や在来種の種を護ろうとしている、種関係の仕事をしている方には衝撃的な報道になりました。

農林水産省の資料に、種苗法についてのQ&Aがありますので、種苗法について学びたい方は一度読んでみると理解が深まります。

>>改正種苗法に関するQ&A(未定稿)令和3年4月版pdf<<

F1種には問題があると思っている方や、自然農法や本当の野菜をつくりたいと思っている方は、種苗法の実際をよく理解しておかないと、法に触れる可能性もありますので、種苗法に関してはしっかりとおさえておきましょう。

種苗法とは

1998年5月に公布された法律で、植物の新品種を開発した人が、その新品種を登録することで、新品種を育成する権利を占有することが出来るというもので、種苗法を馴染みなモノで例えると、特許申請の植物版とか、キャラクターなどの版権の植物版といった感じです。

この法律ができた背景としては、味(果物なら甘さの追求など)病気に強い(害虫に負けない米など)多収量(天候に左右されず収穫できる野菜など)などを達成するために、品種を掛け合わせるなどの研究開発を行ってきた者の知的財産を「育成者権」として保護するためです。

種苗法一部改正により自家増殖原則禁止になった理由

種苗法で「育成者権」というものが規定されているにも関わらず、近年「とちおとめ」や「レッドパール」といった、日本で開発された品種のイチゴが、韓国で無断に生産されていたり、公休マスカットであるシャインマスカットも中国に流出し生産されていることが判明しました。

この様なことがあると、どんなに優れた農産物を開発しても、輸出による利益が得られません。

そういったことから「育成者権」を保護するという建前の元に自家増殖を禁止した様で、育成者権を保護を強化することにより、品種登録者数の増加を見込み、日本の農業の発展も促している様です。

自家増殖原則禁止による農家さんの不安

自家増殖原則禁止」という言葉は、実際に野菜をつくっている方、特に固定種や在来種の野菜をつくって、種を自家採取して、代々野菜をつくり続けている農家さんからしたら、

  • 在来種や固定種が消滅してしまう。
  • 毎回種苗を購入しないといけないので、コストがかかってしまう。
  • F1種の野菜だけになると健康不安がある。

などなど、大きな不安でしかありません。

「自家増殖原則禁止」という言葉だけをみると、上記の様なことになってしまいかねませんが、上記の様な心配は今のところ不要ですので、まずは安心してください!

在来種や固定種について

改正種苗法で自家増殖原則禁止になったのは、育成者権が認められている農作物になり、固定種や在来種の様に育成者権がないもの、誰かが開発したものでなくて元々あるものに関しては、これまで通り自家採取可能ですし、これまでと同様に栽培したり販売することもできます。

固定種や在来種など、地域で自家採取が認められている場合は、これまで通りの運用が可能なので、毎回種苗を購入することもなく、無駄なコストもかかりません。

F1種だけになる場合の健康不安

F1種からとれる野菜や果物などの健康不安は、医学的や科学的な証拠は無いとされていますが、メリットが大きくなるとデメリットも大きくなることは世の常で、私はF1種に対する健康不安は大いに持っているタイプです。興味がある方は、以下の記事をご覧ください。

>>F1種の野菜は溶ける!?その真意を検証<<

仮に固定種や在来種の自家増殖原則禁止という流れになるのであれば、健康不安は大いにありますが、現在のところ原則として、固定種や在来種の自家採取は可能なので、これまで通りの感覚で過ごしていただき、健康不安がある方は、固定種や在来種から出来た野菜や、自然農法をしている農家さんから野菜を買うことをおすすめします。

育成者権の品種の栽培について

スーパーや百貨店などで買ってきた果物や野菜、例えば私が保育園の時に庭に柿の種を植えて育てた(実際は放置していました。)モノについては、自分たちで食べたり、近所にお裾分けする程度であれば、基本的には問題ありません。

これを繁殖目的などで、種や苗などを他者に渡すと種苗法に抵触してしまい、罰せらる可能性があるので、あくまでも自己消費という形で考えていただければと思います。詳細は農林水産省のホームぺージを確認ください。

農林水産省の「種苗法の改正について(農林水産省 種苗法の改正についてのページはこちら)

というページで種苗法に関することが確認できますが、心配性な私は実際に農林水産省 種苗企画斑(03-3502-8111)に連絡をして、種苗法に関する確認を取ってみましたので、内容を掲載しておきます。

Q  改正種苗法では自家増殖原則禁止とありますが、固定種や在来種など育成者権のないものは自家採取可能でしょうか?

A 一般品種と登録品種というものに分けられていて、登録品種が育成者権を有しているので、育成者権を有している個人や団体との了承が必要ですが、一般品種については増殖や販売はこれまで通りとなりますので、自家採取も販売も可能です。

Q ネット上の情報や噂などで「固定種や在来種の自家採取に関しては地域に委ねられるものもある」とありますが、地方自治体などの地域に問い合わせをする場合はどの部署に連絡したらいいでしょうか?

A 固定種や在来種の自家採取の範囲が地域に委ねれていることはありません。

Q 令和4年4月1日に、また種苗法が改正されるとありますが、どの様な内容でしょうか?

A 育成者権を取ろうとする研究所さん以外の一般農家さんの場合は、登録されている登録品種の農作物を自社や個人での経営に使うことが出来なくなり、もし使用する場合は育成者権を有している団体や個人さんと、個々で契約を結ぶなど、許諾を得てからの使用になるという内容です。

Q 今後固定種や在来種の自家増殖が禁止になる可能性はあるのか?

A 今のところその様なことはありません。

質問したことに対して、的確に解りやすく、すごく良い対応をしていただきました。ありがとうございます。

ちなみに、種苗が登録品種かどうかを確認したい場合は、ネット検索で「品種登録データ検索(品種登録データ検索のページはこちら)というページを開くと、品種登録データ検索のページがでてきますので、2行目の農林水産植物の種類というところに、野菜や果物の種類を入力して検索をかけます。(トマトならトマト、イチゴならイチゴと入力してください。お米の場合は稲と入力します。)

検索をかけると下部の空白部分に登録品種の一覧がでてきて、ここに登録のある品種に関しては、育成者権を有している登録品種に該当するということになります。

この一覧には育成者権者名の記載もありますので、令和4年4月以降に、登録品種を経営に活用する場合は、直接育成者権者に連絡をして許諾を得れば自家採取等も可能になります。

まとめ

農業に関する法律は色んな決め事があったり、デマや噂も絶えません。

きちんとした野菜をつくっていくには、きちんとした情報も必要になってきます。私もまだまだこれからたくさんのことを学んでいかないといけませんが、皆さんも是非自分自身で情報を取って、より良い暮らしや、より良い農業を培っていきましょう。

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n+編集長

やまだ

ライター

山口県出身で、現在は大阪・山口を拠点に“健康”と“教育”をテーマに、トレーニングジム・健康サロン・児童福祉施設・自然農畑を運営。 自身の身体不調をきっかけに現代医療に見切りをつけ、補完療法や自然療法を軸として「効果的」「簡単」「安価」をキーワードに、誰でも気軽に出来る健康実践法を追求し続けている。心許せる信頼出来る各分野のプロフェッショナルにサポートしてもらいながら「人生おもいっきり愉しむ計画!」を稼働中。